【Health Science Blog】Vol.12 「パッと見て歩行能力の低下が分かる方法ってあるの?良い歩き方を悪い歩き方、そして良い歩き方を目指す方法」

外出する機会が少なくなると、歩行能力が低下するリスクがありますが、認知力と併せて歩行能力は私たちが生活をしていくうえで非常に大切になってきます。
いつもお話をしていることではありますが、こうした基礎能力の低下は可能な限り早く察知して、さらなる低下の予防、そして可能であれば向上をさせていくというのが、健康促進の基本となります。
バイオメカニクスの研究をやり続けてきた一部のマニア集団(私のことになります 笑)を除けば、パッと見て、その人の歩き方が良いか悪いかを判断できる方法が大切になります。

今回は、ある程度誰でも実践できるか「簡易歩行診断方法」を紹介します。

「基本歩行データ」は、踵とつま先の位置情報と時間情報に基づいて定義できる方データとなります。英語では、「spatio-temporal parameters」などと表現されていて、「spatio = spatial」は位置を表し、「temporal」は時間を表します。

SpatialはSpace(スペース)の派生であり、Temporalは「テンポ」の派生になるので、覚えやすいかと思います。

これらも100分の1ミリ秒以上の正確さを求めるのであれば3D動作解析システムの使用などが必須になってきますが、ストップウォッチと足あとさえあれば、大雑把な測定ができるのも特徴です。

基本歩行データに関しては、様々な文献がありますが、

データが表す一般的な傾向
改善方法
の2つに絞って今回はお話させて頂きたく思います。

Holman, JH., McDade, EM., Petersen, RC. 2011. Normative spatiotemporal gait parmaeters in older adults. Gait and Posture, 34 (1): 111-118.

Nagano, H., Begg, R., Sparrow, WA., Taylor, S. 2013. A comparison of treadmill and overground walking effects on step cycle asymmetry in young and older individuals. Journal of Applied Biomechanics, 29 (2): 188-193.

■基本歩行データって何?

以下の基本歩行データを測定することで、その人の歩行能力がある程度分かります。

歩行速度:歩いている速さです。研究レベルだとm/s(1秒で何メートル進むか)が使われますが、日常生活ではkm/h(1時間で何キロ進むか)を使われることが多いのが特徴です。

歩幅:かかと着地から反対足のかかと着地までの前後距離。
歩隔:かかと着地から反対足のかかと着地までの左右距離。
両足立脚時間:かかと着地から反対足のつま先離地までの時間。

SPATIAL GAIT PARAMETER

さらに細かく調べるのであれば、

片足立脚時間:反対足のつま先離地からかかと着地までの時間。片足で立っている時間。
ステップ速度:つま先離地からかかと着地(遊脚期)に足が前方に進む速度。平均値と最大値を見る方法がある。

も役立ちます。

他の基本歩行データは、基本的に重複している部分が多いので、それのみで新しい意味を成すとは言えませんが・・・

遊脚時間:つま先離地からかかと着地までを遊脚期と言い、遊脚時間を測ることもあります。しかし、これは反対足(立脚期にある足の)片足立脚時間と全く同じになります。
立脚時間:これは、上記の片足立脚時間に両足立脚時間を加えたものです。
ステップ時間:一歩(1ステップ)にかかる時間になります。かかと着地から反対足のかかと着地までの時間となりますが、これは「両足立脚時間+(反対足)片足立脚時間」となり、特に新しいデータとは言えません。

さらに、細かい情報ではありませんが、ストライドデータを取る人もいます。

ストライドとは2歩(2ステップ)を意味するので、ストライドに注目すると両足間の差異などを知る術が無くなってしまうという欠点があります。

GPSで移動距離を出して、それをかかった時間で割った場合は、左右差を区別するのが難しいので、そういった場合においてはストライドデータで表すことしかできなくなります。

(例)

ストライド・レングス=右歩幅+左歩幅

ストライド・タイム=右ステップタイム+左ステップタイム

このように「かかと着地」と「つま先離地」の位置情報とタイミングから、様々な歩行データを取ることができて、総称して「基本歩行データ」と呼びます。

かかと着地とつま先離地のエンジニア的な定義が大切になってきますが、専門的になりすぎるので、この点につきましてはまたの機会にお話します。

■基本歩行データが表す歩行機能

(1) 歩行速度の低下は歩行能力の低下

一番わかりやすいのは、歩く速度です。歩行能力が低下すると速く歩くことができなくなります。

(2) 歩幅の低下は歩行能力の低下

歩行能力が低下して歩行速度が低下した場合、歩幅の減少が必ず伴うといっても過言ではありません。歩幅は物凄く長くなったけど、ステップの数(ケーデンス)が減った、ということは、ほとんどありません。

(3) 歩隔の増加はバランスの低下

足と足の横幅が拡がっている人は、左右のバランスが悪くなってきているので、以前お話したBase of Support(BOS)を横に拡げることでバランスを安定させようとしていることが考えられます。(BOSの詳細はコチラ)よって、バランスに問題のある時に見られる歩行の変化の一つです。

(4) 両足立脚時間の増加はバランスの低下

歩隔の増加に併せて、バランスが悪くなると、必然的に片足で立っている時間を短くしようとします。つまり、両足立脚時間の割合が増加することになります。

TEMPORAL GAIT PARAMETER (1)

■基本歩行データ改善の方法論

上記の基本歩行データの変化により、歩行能力の低下や向上を測定することができます。ここでは、これらのデータの改善方法について簡単にお伝えします。これらを行うことで、最も基本となる「歩行速度の増加」に繋がることが期待されます。

(1) 歩幅の上昇

大腿四頭筋の強化:腿の前面の筋肉を鍛えることで、歩幅の増加が期待できます。
前脛骨筋の強化:脛の前の筋肉を強化することで、かかと着地がべた足で行われることが回避できます。べた足のかかと着地は歩幅の減少に繋がるため、しっかりとかかとから踏み込むようにしましょう。
脹脛の強化:賛否両論ありますが・・・脹脛を強化することで、足の蹴りだしが強化され歩幅が増加すると言う人もいます。しかし、過度な足の蹴りだしは足を痛める可能性があるので、これ一つに頼って歩幅の増加を目指すことは避けるべきでしょう。

(2) 歩隔の減少

線の上歩行:一番簡単な方法は、一本の線の上を歩く練習を行うことです。一本の線の上を歩くことで、歩隔0の状態が維持できます。これは、バランスを取るのが難しくなるため注意は必要ですが、こうした状況下で歩くトレーニングは、バランス向上にも役立ちます。

(3) 両足立脚時間の減少

リズム歩行:例えば手を一定のリズムで叩いたり、メトロノームを使ったりしながら一定のリズムで足踏みをする練習を行います。これをできるだけ早いペースで行っていくことで、必然的に両足立脚時間は下がってきます。ただし、これは練習としては効果的ですが、実際に歩くときはたくさんステップを踏めばよいというわけではないので、「トレーニング用」と割り切ってリズム歩行を行うことが大切になります。

以上、簡易な歩行測定の方法をお伝えしました。また、問題点が見られた時の改善方法も簡単なものを上記の通りお伝えしています。

また別の機会に、さらに具体的で詳細な方法をお伝えしていきます。

最後に、歩行トレーニングの一環として、正しい足の使い方を学ぶ必要があります。ISEALインソールは、履いているだけで正しい足首の使い方を練習することができるように設計されています。その秘密は、インソールの角度が勝手に足首をベストな動きに導いてくれるということと、インソール上の突起を足がなぞることで、自動的に正しい足の使い方がされることにあります。ぜひ、お試しください!

また、物理を始めとし様々な科学について、YouTube番組を作りました。ミクロちゃんとゴンちゃんというキャラクターの人形劇を含む、面白くも深い科学の魅力を伝えることを目的にしています。ぜひ、チャンネル登録をください!!!よろしくお願いいたします。

文責 Dr Hanatsu Nagano

「驚愕のパラレルワールド」【痛快科学番組】Vol.4

痛快科学番組!ゴンちゃん&ミクロちゃん ー世界と宇宙の秘密を明かす旅ー

■第4話のあらすじ■
ある日、ゴンちゃんは幽霊に出会い、ミクロちゃんは自分にそっくりのネズミで出会いました。パラレルワールドへようこそ!!!科学的に説明してもらって、ゴンちゃんとミクロちゃんは、安心しました。でも、油断したはなつ先生は、食べられちゃった?!Σ(゚Д゚)
https://youtu.be/eHpVfty9umU

■物語の内容■
タイムマシンを作り恐竜時代に行きたいネズミの「ミクロちゃん」。
食べ物の3Dプリンターを開発して食べ放題したい食いしん坊の犬っころの「ゴンちゃん」。
実は宇宙会議に呼ばれている科学者の「はなつ先生」。
科学の魅力を教えてもらいながら、地球や宇宙の神秘を知り、まだ明らかになっていない秘密に挑んで行く2匹と1人の科学旅番組!

《YouTube科学番組スタートしました!》

子どもや若者の科学離れを解決するために、今までわかっていることや、これから明らかにしてほしいことを織り交ぜながら、科学に興味を持ってもらいたいと願い、番組作成を開始しました。これがきっかけで、世界や宇宙に希望を持ち、生きる楽しみを広げるきっかけになれば幸せです。内容はできるだけわかりやすくポップにお伝えしていますが、大人でも楽しんでいけるように本格的な内容を扱っています!

(キーワード:「痛快科学番組」を検索してね!)
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【Health Science Blog】Vol.11 「バランスが良い、悪いってどういうこと?」

運動をしている時は、良いバランスを維持することが基本的に大切になります。
バランスが悪いと、倒れて怪我をしてしまう危険性が高まりますし、体操やダンスなどにおいても、良いパフォーマンスをこなすにはバランスが大切になります。
しかし、バランスって何なのでしょうか?
もちろん感覚的には誰でもバランスが何かっていうのは、ある意味分かっているとは思います。しかし、バランスを数値で表す方法などは、あまり知られていないというのが現状でしょう。
今回は、バランスについてバイオメカニクスの考え方を紹介したく思います。

Hof, A.L., Gazendam, M.G.J., Sinke, W.E. 2005. The condition for dynamic stability. Journal of Biomechanics, 38: 1-8.
Lugade, V., Lin, V., Chou, L. 2011. Center of mass and base of support interaction during gait Gait and Posture, 33 (3): 406-411.

さらに、今学界で認められている考え方の一つ先までお話したく思います。
この話に関しては、私自身の博士研究の中から生まれたコンセプトで、オープンソースとして閲覧できます。

Nagano, H. 2014. Understanding Gait Control Dynamics: Ageing Effects on Falling Risks. Victoria University, PhD thesis.

「重心がBOSの中にある」これが良いバランスを意味する。
現在バイオメカニクスで言われていることは、「体の重心がBOSの中にあれば安全」ということです。ここで言うBOSとは、Base of Supportを意味します。
※日本語ではBase of Supportは「支持基底面」と言われることもありますが、ここでいうSupportは体のバランスを「サポート」するという意味であり「あなたの主張をサポートする(支持する)」という意味とは異なるので、個人的に誤訳と考え、BOSで表現します。
BOSは、足と地面の接地面積、およびその間の面積を意味します。つまり、片足立ちをしている時は、足が地面と接地している面積がBOSとなります。しかし、両足で立っている場合は、両足の接地面積に加えて、両足間の面積もBOSに含まれます。
そして、体が動いていない時は、BOSの中に体の重心があればバランスが安定している状態と考えられています。片足立ちの状態だと両足立ちの状態と比べて、バランスを維持するのが難しくなりますが、これはBOSの大きさが片足立ちだと非常に小さくなることが理由としてあげられます。
「重心がBOSの中だとバランスは安定している」これは大きく見れば大体正しいのですが・・・体が動いている時、つまり運動中においてはこの定義は当てはまりません。
それはなぜでしょうか?
例えばBOSの境界線の上に重心がある場合、その重心が全く動いていなければ安全ですが、物凄い勢いで動いていれば、もう取り返しがつかない状態でそのまま倒れてしまうかもしれません。
なので、BOSと重心の位置関係に加えて、重心がどのように動いているかを考える必要があります。

「重心がBOSに向かっている」これは良いバランスと言い切れるか?
ひとつの考え方として、「重心がBOSの外にあったとしても、重心がBOSに向かっていればバランスは回復しているから危険ではない。逆に、重心がBOSの中にあっても外へ向かって移動していれば、バランスロスが始まっている状態である。」と報告した研究もありました。しかし、この考え方は完全であるとは言えません。というのも、仮に重心がBOSへと向かっていたとしても、重心が地面と近すぎれば、倒れていくことを阻止することはできないからです。
こうした問題をクリアするために、現在のバイオメカニクスにおいて、「運動中の良いバランスとは、Extrapolated Centre of Mass (XCOM)がBOSの中にあること」と定義されています。
ここで言うXCOMとは、以下の式で表されます。
XCOM=(重心の位置)+(重心の速度)×√(脚の長さ÷重力加速度)
このXCOMは、重心の速度が緻密に考慮されているため、運動時のバランスを考える上では正確であるとバイオメカニクスの観点から考えられています。

Balance BOS

バランスの数値化
よって、バランスの数値化はXCOM・重心の位置・BOSを用いて現在まで行われてきています。それ以外の方法は、直接的にバランスを測定しているとは言えないので注意をする必要があります。
「バイオメカニクスに基づき、バランスを~」などというキャッチコピーを見た場合は、本当に重心とBOSが考慮されているかどうか?をしっかりと見てください。
深く理解をしている人が少ない分、この原理をすっ飛ばしてバイオメカニクスを語りながらバランスについて言及する人は・・・要注意です!
これらを考慮したうえで、バランスの数値化は以下の通りです。
(1) Margin of Stability「安定性の余裕」(MOS)
(2) Available Response Time「実行可能な応答時間」(ART)

xcom art

機能的なバランスロス vs 危険なバランスロス
次に、BOSの考え方の問題点を挙げます。これは、いたってシンプルで、足が地面と接地していないとBOSとして考えないのであれば、例えば真上に垂直ジャンプをした場合、地面と足が設置していないため、BOSは全く存在しないことになります。そうなってしまうと、ジャンプして着地する、という何の危険もない動作が、「バランスロス」と定義されてしまいます。あるいは、歩く・走るなどといった普通のロコモーションですら、バランスロスということになってしまいます。
この考え方は、「機能的なバランスロス」と「危険なバランスロス」という風に区別することができれば解決します。前者は、歩く・走る・ジャンプするなどが含まれています。つまり、BOSの定義に基づけば、BOSが存在しない以上バランスロスになるが、怪我をするリスクが限りなく少ない場合を意味します。そして、後者の「危険なバランスロス」は、怪我に繋がるリスクが高い、あるいは転んでいる状況を意味します。これらを判断するためには、全く同じバランスの考え方をするのですが、BOSの代わりに「安全圏」という考え方をすれば解決します。安全圏とは、横断面において足の接地に関わらず両足とその間の面積を意味します。
そして、以下のように区別することが可能です。
(1) 安定状態:XCOMがBOSの中
(2) 機能的なバランスロス:XCOMがBOSの外だが安全圏の中
(3) 危険なバランスロス:XCOMが安全圏の外

最後に・・・
ISEALインソールは、バランスを向上させる効果があります。これは、重心のブレを極限まで抑えることで特に左右方向への安定性を向上させます。運動や普段の生活にご活用ください!

文責:Dr Hanatsu Nagano

また、物理学を始めとした様々な科学の面白さについて、YouTubeチャンネルを開設しました。ゴンちゃんとミクロちゃんというキャラクターも居て、科学の面白いところを引き出している・・・と思います。ぜひ、チャンネル登録していただいたうえで、ご覧になってもらえると大変うれしいです!よろしくお願いいたします!

【痛快科学番組】Vol.3「強くなるための原理・原則」

痛快科学番組!ゴンちゃん&ミクロちゃん ー世界と宇宙の秘密を明かす旅ー

■物語の内容■
タイムマシンを作り恐竜時代に行きたいネズミの「ミクロちゃん」。
食べ物の3Dプリンターを開発して食べ放題したい食いしん坊の犬っころの「ゴンちゃん」。
実は宇宙会議に呼ばれている科学者の「はなつ先生」。
科学の魅力を教えてもらいながら、地球や宇宙の神秘を知り、またま明らかになっていない秘密に挑んで行く2匹と1人の科学旅番組!

■第3話のあらすじ■
食いしん坊のゴンちゃんは、朝起きたらお腹がポッコリしていました。科学で助けて~!!https://youtu.be/CfnvaUu84fE

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子どもや若者の科学離れを解決するために、今までわかっていることや、これから明らかにしてほしいことを織り交ぜながら、科学に興味を持ってもらいたいと願い、番組作成を開始しました。これがきっかけで、世界や宇宙に希望を持ち、生きる楽しみを広げるきっかけになれば幸せです。内容はできるだけわかりやすくポップにお伝えしていますが、大人でも楽しんでいけるように本格的な内容を扱っています!

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【Health Science Blog】Vol.10「年齢による歩行機能の低下ってどんなこと?認知力との関係もあるの?神経伝達性の低下が原因?」

私は今この時のために研究をしてきたのかもしれない!と最近思うことがあります。

というのも、2021年1月現在・・・コロナウイルスによる2度目の緊急事態宣言が出されました。これにより危ぶまれることこそ、シニアの方の健康だと思うのです。

もちろん一番優先されるべきことは、コロナウイルスにかからないことなのだと思います。

しかし、自宅から出ないことを続けていると・・・運動不足やコミュニケーション不足で歩行機能と認知機能、そして精神健康に悪い影響を及ぼす可能性があります。そして、これらのことは互いに関係しあっているため、一つが悪くなると他にも影響を及ぼす可能性はあります。

そして、個人の幸せという意味以外にも、社会的に考えてコロナの件で医療崩壊が叫ばれていますが、緊急事態宣言による外出自粛などが原因での二次被害は、極力抑える必要があります。

今回は、年齢による歩行機能の低下について大枠をまとめてみました。タイトルで「年齢による」と書きましたが、ほとんど全ての大人に共通して言えることになります。

Pirker, W., Katzenschlager, R. 2017. Gait disorders in adults and the elderly. Wiener Klinische Wochenschrift, 129: 81-95.


60代だと10%、80歳以降は60%が何かしらの歩行障害を抱えている

歩行に問題を生じる原因は様々ですが、神経伝達の問題、物理的な身体の問題、精神健康の問題などに分かれていきます。これらの要因は互いに関係があるため、一つが悪くなれば他にも影響を与える可能性があります。また、逆の見方をすれば、歩行に問題が生じた場合は、「神経伝達・物理的な問題・精神健康」を確認することが重要と言えます。例えば、歩行能力が下がってくることは、将来的な認知症のリスクと関係があるという報告もあります。シニア層に関しては、約半数が、神経伝達が原因で歩行機能が低下していると言われています。しかし、その3分の1程度は、多数の要因があるため、どれか一つを原因として挙げるのは難しいという問題もあります。


求心性フィードバックについて

求心性フィードバックとは、感覚器が刺激を脳に伝達することです。例えば目・耳・プロプリオセプション(筋肉・関節などの位置感覚)のいずれかが悪くなっていた場合、他の部分で補おうとする傾向があります。歩行時に目が悪い場合は、耳やプロプリオセプションの働きが歩行の安全を保とうとします。つまり、どれか一つが悪くなると他の部分に頼りやすくなるということです。

認知力と歩行機能

歩行機能の低下と認知力・寿命には関係があります。そして、認知機能の中では、実行機能・視覚空間の感覚・注意力などが安全な歩行と関連しています。以前の投稿でもお話しましたが、「話しかけると、立ち止まって歩いてしまう人」は転倒のリスクが高いと言えます。もちろんここでは、じっくり話すために立ち止まるということを指しているのではなく、立ち止まらないと話せない、つまり「歩く」「話す」という行動を同時に取る能力が低下している人のことを指しています。認知機能は多岐にわたりますが、認知力の向上は安全な歩行にも役立つとされています。

神経伝達への障害と歩行への影響

神経伝達とは、主に上述した求心性フィードバックと遠心性フィードバックによって成り立っています。例えば、障害物を見て、それを回避した場合、求心性フィードバックは「視覚で得た情報を脳に送る」、遠心性フィードバックは「脳から足に回避する信号を送る」ということになります。これらに問題が生じると、当然歩行機能や安全性が低下します。最も大きな神経伝達の問題としては感覚運動失調が18%を占めています。感覚運動失調とは、感覚を得ることに問題が生じ、体全体を同時に協調させて動かすことが難しくなることを指します。体の運動機能を司る小脳自体には問題がないという特徴があります。感覚運動失調に次ぐ神経伝達の問題としては、パーキンソン病が16%となります。そして、8%が前頭葉の問題であり、先ほど話した感覚運動失調の中でも小脳が原因の種類…と続いていきます。

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感覚運動失調:歩行の特徴としては、歩幅が短くなり歩行速度が低下します。さらに両足の横幅(歩隔)は増加する傾向があります。これらは、バランスに問題が生じた時に共通して起こる歩行の変化です。この症状があると、平衡感覚や体の位置感覚が低下するため、視覚でカバーしようとする傾向が生まれます。つまり、視覚が働かない状況(例:暗闇)では、さらに症状が悪化し、歩行中の怪我のリスクが高まります。

パーキンソン:動作速度の低下、動きのかたさ、震え、バランスの低下などが主に見られます。初期は、体の片側に症状が現れ、その後反対側へも影響が出てくることがあります。歩行時に他のことを同時にすると(二重課題・多重課題)歩行の安全性が損なわれます。パーキンソン症状を持つ人は、階段を上る方が平たんな地面を歩くよりも簡単な場合が多いのが特徴です。「すくみ足」は、パーキンソン症状を持つ人の歩き方の特徴の一つです。方向転換したり、障害物に近づいたり、狭いところを通ろうとしたり(例:ドア)したときに、すくみ足は生じやすくなります。レボドパを使用すれば、すくみ足の症状は改善されることがありますが、症状の進行に併せて、長期使用しているとその効果は減っていく傾向があります。

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前頭葉:前頭葉の問題によって生じる歩行への障害は「Highest level gait disorder」などと形容されることがあり、非常に多くの問題を同時に生じやすくなります。これらは、脳の灰白質の萎縮が原因で起こると考えられています。それにより、運動皮質と中脳の歩行機能に関連している部分のリンクを弱めます。前頭葉への悪影響により歩行が難しくなった場合、「歩き方を忘れてしまう」という状況になることがあります。同様に、立ち上がり方も忘れてしまうことがあります。しかし、一度歩きだすことができれば、徐々にその状態を続けることができるようになります。症状の根本的な改善は難しいとされています。聴覚や視覚に合わせた歩行トレーニングやレボドパの使用など、パーキンソン症状において活用されている方法も、効果が得られる可能性はあまり高くないと報告されています。


小脳性の感覚運動失調:
感覚運動失調と基本的には同様の症状が見られますが、感覚運動失調が例えばプロプリオセプションによる平衡感覚やバランス感覚、位置感覚の低下であるとすれば、小脳性の場合は、文字通り小脳への影響によって体の統合が失われバランスに悪影響が出やすくなります。また、小脳性の特徴としては、方向転換時や複雑な歩行(例:タンデム歩行など)を行うとバランス力が低下します。これらを引き起こす原因の一例としては、「血管系の問題、アルコールなどの中毒、多発性硬化症などの炎症、遺伝性の病気」などが挙げられます。

cerebellum

まとめ:神経伝達の問題は、全てが解明されているわけではなく、確立された治療法が少ないことが問題として挙げられます。しかし、以上の情報を基に、まずは現状把握をすることが大切になります。

ISEALインソールは、歩行中の転倒リスクを下げるために開発されました。履くだけで効果があるというのが特徴なため、上記のような症状があっても活用いただけます。現在の社会情勢の中でこそ、転倒予防が大切になってくることと思います。

文責:Dr Hanatsu Nagano

【痛快科学番】Vol.2「タイムマシンと食べ放題3Dプリンターを開発してみせる!!」

痛快科学番組:ゴンちゃん&ミクロちゃん 
-世界と宇宙の秘密を明かす旅-

子どもや若者の科学離れを解決するために、今までわかっていることや、これから明らかにしてほしいことを織り交ぜながら、科学に興味を持ってもらいたいと願い、番組作成を開始しました。これがきっかけで、世界や宇宙に希望を持ち、生きる楽しみを広げるきっかけになれば幸せです。内容はできるだけわかりやすくポップにお伝えしていますが、大人でも楽しんでいけるように本格的な内容を扱っています!

【痛快科学番組】Vol.2
はなつ先生との学習の中で、ゴンちゃんとミクロちゃんの夢が決まりました!
科学って面白い☆

https://youtu.be/Qd4o8e8biIM

■物語の内容■
タイムマシンを作り恐竜時代に行きたいネズミの「ミクロちゃん」。
食べ物の3Dプリンターを開発して食べ放題したい食いしん坊の犬っころの「ゴンちゃん」。
実は宇宙会議に呼ばれている科学者の「はなつ先生」。
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【Health Science Blog】Vol.9 「50、49、48・・・と数えながら歩けますか?デュアル・タスクで分かる中枢神経系の健康状態。」

私のミッションの核になるものに、シニアの方たちの歩行能力の改善があります。
そして、そのためには、まずは歩行能力を適切に評価する必要があります。

これから様々な簡易評価方法を紹介していきたくは思いますが、今回は第一弾として、脳と脊髄に問題があるかどうかを診断する簡単な方法をお伝えします。
普通に歩くことはできても、実は歩行障害の予備軍である場合もあります。それを早期発見して対応していくことが、望まれる対策となります。
この方法は、色々なオプションをつければ、より様々な評価が可能となります。

皆さんは、デュアル・タスクという言葉を聞いたことはありますか?
日本語では、二重課題・多重課題(multiple task)などとも言われています。
デュアル・タスクとは、二つのことを同時にすることになります。
これを歩行時に行うと・・・普段見えなかった弱点が浮き彫りになることがあります。
簡単にできる診断方法なので、危険には十分注意したうえでご活用いただきたく思います。
今回の論文は、オープンアクセスなのでダウンロード可能です!

Auvinet, B., Touzard, C. Montestruc, F., Delafond, A., Goeb, V. 2017. Gait disorders in the elderly and dual task gait analysis: a new approach for identifying motor phenotypes. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 14 (7).

■中枢神経の問題による歩行能力の低下
70歳以上の約35%、80歳以上の72%が何かしら歩行障害を抱えていると言われています。それによって、普段の生活を送るのが難しくなり、転倒による怪我や入院のリスクも高まってしまう傾向にあります。これらの原因は、下肢などの物理的な衰えが原因となることもありますが、中枢神経系(脳・脊髄)の問題による場合もあります。

例えば、65歳以上の25%は、何かしらの認知障害(軽度認知障害も含む)を抱えていると言われています。歩行においては、様々な脳の領域が共同で働いて行われていることから、認知力の低下などと同時に歩行能力の低下が起こることも多々あります。普段、認知力や歩行能力に問題が見られない人でも、中枢神経にわずかな問題を生じている場合、デュアル・タスクを行うのが難しくなるという報告があります。つまり、デュアル・タスクを課したうえで歩行パターンを見ると、その人が中枢神経に問題を抱えているかどうかの目安になる可能性があります。

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■歩行パラメータの選び方
中枢神経系の問題が反映される歩行パラメータは多岐にわたりますが、この研究では「ペース・リズム・変動性」の3つに絞って実験を行っています。「ペース」とは歩行速度のこと、「リズム」とはケーデンス(1分で何ステップするか)、「変動性」とは同じ歩行パターンを維持できるかどうか、を意味します。デュアル・タスクは「50,49、48・・・」50から逆に数えていくことと、歩くことを同時に行うことです。

デュアル・タスク歩行を行うと・・・
デュアル・タスク歩行を行うと、歩行速度が下がります。そして、歩行の変動性が上がります。つまり、ゆっくりと歩き、常に同じ歩き方を維持することが難しくなるのです。これらは、「物忘れの多い人達・歩行が安定しない人達・何度も転倒する人達・虚弱な歩き方をする人達」において、共通して見られた傾向でした。つまり、普通に歩いていて問題が無い人は、デュアル・タスク歩行を行って「ゆっくり歩きになって、一定の歩き方ができないかどうか?」を確認してみると良いでしょう。ただし、このテストを行うことは、若干の危険を伴う可能性があるため、十分に注意して行いましょう。

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■さらなるデュアル・タスク
今回の論文で紹介したデュアル・タスクは比較的シンプルなものですが、難易度を上げることは可能です。良く使われるものとしては、「計算を行いながら」というものです。例えば、「200から7を引き続ける」などのタスクを課すことで、単に50を逆から数えるよりも段違いに難易度は上がります。あとは、例えば水をたくさん入れたコップを持ちながら歩くなども注意分散力を要するために多重課題性があります。もっと簡単な方法としては、会話をしながら歩くこともデュアル・タスクになります。歩行能力が低下した人に話しかけると、立ち止まってから応答することが多々あります。これは、デュアル・タスクを回避していると考えることができます。こうした理由から、例えばトレッドミル歩行を行いながら、デュアル・タスクを行うのはかなり危険を伴います。相当な安全確保の対策をしていない限りおススメはできません。昨今では、「歩きスマホ」などが問題として挙げられていますが、これもデュアル・タスクにより歩行力が落ちて転倒したり、ぶつかったりすることが若年者においても起こることがあるからです。

このようにデュアル・タスクは、普通に歩ける人達が、歩行障害のリスクがあるかどうか、予備軍かどうかを判断するのに役立つコンセプトです。そして、十分に注意は必要ですが、こうしたデュアル・タスク性をトレーニングすることは、脳機能の改善とそれに伴う歩行能力の改善にも繋がることが期待されます。

最後に・・・
ISEALインソールのご活用もご検討ください。これは、履いているだけでバランスを向上させる機能があるので、デュアル・タスクを含む歩行機能の低下をカバーする効果があります。

(文章:Victoria大学 長野放博士)

【痛快科学番組】Vol.1 「夕陽に隠されたエネルギーの秘密」《YouTube科学番組スタート!》

【痛快科学番組!ゴンちゃん&ミクロちゃん】 ー世界と宇宙の秘密を明かす旅ー

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【痛快科学番組】Vol.1
「夕陽に隠されたエネルギーの秘密」

なぜ、日中と夕暮れ時では、太陽の色が違うんだろう?
ゴンちゃんとミクロちゃんは、自然の不思議に興味津々です!

https://youtu.be/WaRIuXe7uD0
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【Health Science Blog】Vol.8「シニアの人に有効な歩行トレーニングってなに?」

歩行能力は生活において非常に大切ですが、加齢とともに低下していき、最終的には自力で自由に移動をすることが難しくなるケースが多いということは、高齢化が進んでいる日本にとっては大きな問題です。
歩行能力を可能な限り維持しておくことが、健康で高いQOLを維持した人生を送るのに必須なのは言うまでもありません。また、社会保障制度全体を考えた場合でも、シニア層が可能な限り自由に歩いて移動できる方が、医療介護費を減少させることが可能となるわけです。

こうした理由から、シニアの人たちは、歩行能力を向上していくことが様々な面において大切になります。歩行能力というのは、一言で表すのは難しく、様々なデータから総合的に判断するべきものです。さらに言うと、「転びやすいかどうか?」「膝を痛めやすいかどうか?」など、より特定された問題に対しては、ただ単に歩き方を少し見ただけでは正確に判断するのは難しい可能性があります。

こうした大前提は認めたうえで・・・歩行能力の低下を無理やり一言で表せば「歩行速度の低下」と言うことも可能です。もちろん、これは完璧な答えとは程遠いわけですが、特に細かい測定などをせずとも、歩行速度が低下してくれば、歩行能力が低下してきたことが懸念されます。このように、詳細まで正確に検査し、特別な手法を用いてこうした弱点を乗り越えていかないのであれば、大雑把に言えば「速く歩ける能力」を維持し、改善していくことが大切になってきます。

私のような世界的に見てもごく少数のバイオメカニクスマニアを除けば、医師であろうとも、健康科学の専門家であろうとも、「歩行速度」「歩数」などの一般的なデータを基に健康を判断するのが普通です。そのための診断方法としても、6分間歩行(6分間で何メートル歩けるか?)、TUG(椅子に座った状態から立ち上がり3m先の目印まで歩き、折り返しまた椅子に戻って座るまでの時間の計測)など比較的簡易でどこでもできることが利用されがちです。そのため、こうしたデータが多く集まり、ある程度正確に総合的な歩行能力の測定においては、役立つ指標であると考えられています。
そうした中で、具体的にはどのような方法で歩行能力を改善させることができるのでしょうか?

今回は、比較的に簡単にできる方法として「歩行トレーニング」と「筋力トレーニング」の2つに焦点をあて、どのような効果が期待できるかについてお話をします。さらに、ほかにはどのような点を考慮していけば、より効果的なトレーニングになるかについても、考察していきます。

Henderson, RM., Leng, XI., Chmelo, EA., Brinkley, TE., Lyles, MF., Marsh, AP., Nicklas, BJ. 2017. Gait speed response to aerobic versus resistance exercise training in older adults. Aging Clinical and Experimental Research, 29 (5): 969-976.
Brach, JS., VanSwearingen, JM. 2013. Interventions to improve walking in older adults. Current Translational Geriatrics and Experimental Gerontology Reports, 2 (4).

シニア層が歩行能力を改善するために行える運動として、①有酸素運動 と ②筋力トレーニング を比べました。両方とも5カ月間行ったところ、両方の運動において「普通に歩く速度」が上昇しました。有酸素運動においては、早歩きの速度も上昇しました。運動を行う前の健康状態が高い人ほど高い効果が得られました。

有酸素運動について
ここでいう有酸素運動とは、トレッドミル歩行になります。最初は、最大心拍数の50%の心拍数が維持される速度で15分~20分トレッドミル歩行を行い、第6週からは、最大心拍数の65~70%で30分トレッドミル歩行をするようにしました。

筋力トレーニングについて
マシントレーニングを行いました。筋力トレーニングは①レッグプレス、②レッグエクステンション、③シーティド・レッグカール、④シーティド・カーフ、⑤インクライン・プレス、⑥コンパウンド・ロウ、⑦トライセプス・プレス、⑧バイセブス・カールになります。基本的に10回を3セットで、重さは最大値の70%で設定されなした。

エクササイズ②

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エクササイズ②

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まとめ
両方のトレーニングにおいて、約0.2m/sの速度上昇(0.72㎞/h)が見られました。結論としては、トレッドミル歩行の方が早歩きの速度が上昇したために、効果的な可能性があると言われています。

「悪いところを直す」というよりは「特定の動作のトレーニング」が有効
上記の通り、普通にトレーニングをしても歩行能力は上昇する可能性が高いのですが、5カ月間かけて定期的にやる割には、効果が少ないのではないか?という考えもあります。その場合に、悪いところを見つけて、そこを補っていくという考え方というよりは、特定の動作を身に着けることを目的としたトレーニングを行うべきだと言われています。
つまり、大腿四頭筋の筋力が低下しているので大腿四頭筋を強化する、という考え方は有効ですが、必ずしも歩き方のトレーニングをしているわけではないので、特定の動作のトレーニングの方が有効であると考えられています。特に、「タイミング」と「共同作用」を意識したトレーニングが必要だと報告されています。こうした理由からもトレッドミル歩行がひとつ推奨される運動であると言えます。
トレッドミル歩行の利点は、常に歩行速度が一定である上に、同じタイミングでステップをする練習になりやすいので、結果的に歩き方のトレーニングとして効果的である可能性が高いと言えます。さらに、トレッドミル歩行はシニア層にとっては、比較的レベルの高い運動となるため、普段の歩行を楽に行うためにも、こうした難しいトレーニングをしておくことが役立つ可能性があります。トレッドミル歩行については、また別の機会に詳しく説明したく思います。トレッドミル歩行の注意点としては、地上で歩くよりも遅くしないと歩き切るのが大変だということと、ハンドレールを持つ場合は横を持つ方が姿勢が前傾しないので有効な可能性が高いということが挙げられます。

最後に、トレッドミル歩行を行う際に、ISEALインソールの併用もご検討ください。ISEALインソールは、表面に突起があり、その突起をかかと着地からつま先離地までなぞるようにしていけば、自然と正しい足首の使い方をマスターできるように設計されています。トレッドミル歩行で一定の歩き方を身に着けるのであれば、それは正しい歩き方である必要があります。その際に重要になる足首の使い方を簡単に学べるという意味においても、ISEALインソールをご活用ください。

(文章:Victoria大学 長野放博士)

【Health Science Blog】Vol.7「エネルギー効率の高い歩き方ってどういうこと?」

疲れにくいうえに、足首や膝に負担がかからない歩き方を身に着けたくないですか?

それこそが、エネルギー効率の高い歩き方と言えます。人間はもとより全ての動物の歩行は、「エネルギー効率を最大化する」という目標が本能的に備わっていると言われています。

これは、限られた食料の中で移動にかかるエネルギーを極力減らしていかなくてはならない、という動物本来が持つ本能のなごりだと考えられています。

人の歩行に限定した場合、エネルギー効率の高い歩き方っていうのはどういうものなのでしょうか?

今回は、その疑問にお答えしたく思います。

Cavagna, G.A., Zamboni, A. 1976. The sources of external work in level walking and running. The Journal of Physiology, 262, 639-657.

Collett, J., Dawes, H., Howells, K., Elswowrth, C., Izadi, H., Sackley, C. 2007. Anomalous centre of mass energy fluctuations during treadmill walking in healthy individuals. Gait and Posture, 26: 400-406.

Vereecke, E.E., D’Aoūt, K.D., Aerts, P. 2006. The dynamics of hylobatid bipedalism: evidence for an energy-saving mechanism. The Journal of Experimental Biology, 209: 2829-2838

Ortega, J.D., Farley, C.T. 2003. Minimising centre of mass vertical movement increases metabolic cost in walking. Journal of Applied Physiology, 99: 2099-2107.

Schepens, B., Bastien, J., Heglund, C., Willems, P.A. 2004. Mechanical work and muscular efficiency in walking children. The journal of Experimental Biology, 207: 587- 596.

Detremblur, C., Vanmarsenille, J., Cuyper, F.D., Dierick, F. 2005. Relationship between energy cost, gait speed, vertical displacement of centre of body mass and efficiency of pendulum-like mechanism in unilateral amputee gait. Gait and Posture, 21: 333-340.

逆振り子運動のメカニズム
まず、人の歩行を「両足が地面に着いている時(両足立脚期)」と「片足しか地面に着いていない時(片足立脚期)」に分けて考えます。前方に体が進むのは、基本的に片足立脚期になりますが、人の歩行は、本来片足立脚期にはエネルギーが必要ないと言われています。

これは、振り子運動と似た原理に基づきます。振り子は、位置エネルギーと運動エネルギーが延々と変換され続けることで、動きが生じています。空気抵抗などが無ければ、理論上この動きは止まることはありません。この振り子運動をさかさまにした形が、人の歩行の原理となっていて、逆振り子運動「Inverted Pendulum」と呼ばれています。横から見れば、体の重心は、片足立脚期において振り子の逆の原理で動いています。つまり、位置エネルギーと運動エネルギーが変換されているが、エネルギーの総量は一定です。もちろん、前方への移動が完璧なエネルギー変換のみで行われることはありませんが、基本原理として片足立脚期は位置エネルギーと運動エネルギーの変換のみで前方へ移動することが可能です。

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リカバリー率で分かる歩行のエネルギー効率
一方で、両足立脚期ではエネルギーが必要とされています。その理由は、逆振り子運動では、振り子運動と違い次の逆振り子運動を始める際にどうしてもエネルギーのインプットが必要になるからです。その際に、後ろ足が地面を蹴ることになります。そして、この蹴る強さが強ければ強いほど、エネルギー効率は下がります。なぜかと言うと、もしエネルギー効率が100%であれば、一切地面を蹴る必要が無くなるからです。これは、足が地面に着地した時に衝撃を感じないことも意味します。というのも、衝撃を感じる代わりに、本来衝撃になるはずだったエネルギーをうまく活用して、次の逆振り子運動を開始させるからです。

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その際、図の「エネルギーのインプットが必要」な区間において、

(1)位置エネルギー

(2)運動エネルギー

(3)総合的なメカニカルエネルギー(位置エネルギーと運動エネルギーの合計)

の3つがどの位上昇したかを計算し、それぞれΔPE、ΔKE、ΔExtで表した場合、エネルギー効率は、リカバリー率で計算することができます。

リカバリー率=(ΔPE+ΔKE-ΔExt)÷(ΔPE+ΔKE)×100%

となります。もしこれが100%であれば、上述した通り、足や下肢関節に衝撃を感じることは無くなります。よって、歩行運動自体からの疲労も限りなく0に近くなります。現実的には、普通の人の普通の歩き方だと60-70%になることが多いと報告されています。リカバリー率は仮に1%でも上げることができれば、その効果は絶大だと考えられます。というのも、例えば歩くことに限定した場合、1日に1万歩を毎日続けると考えた場合、長期的な関節へのダメージなどを減らすのに役立つ可能性があるからです。

エネルギー効率を下げる効果
エネルギー効率は高めた方が、下肢関節への負担が減り疲れにくくなるといったメリットはありますが、デメリットも考えておく必要があります。まず、(ΔExtが無くなるということは)足で蹴りだす必要が全く無くなるということは、筋肉を使う必要が無くなるということで、筋力低下のリスクが生まれます。逆に言うと、エネルギー効率を下げることは、トレーニング効果を生み出すことになります。確かに、疲れを知らず筋肉を一切使わずとも移動できるのはある意味良いかもしれませんが、筋力トレーニングの観点から考えると、エネルギー効率を下げる必要があります。しかし、その場合は下がったエネルギー効率が一点に集中しないように細心の注意が必要です。もう一つ考えるべきことは、ある程度の衝撃を関節に与えることは重要であったりします。例えば、膝の例で考えると、ある程度衝撃を加えることが軟骨の再生などを開始する合図となります。こうした刺激が無いと、筋肉以外の結合組織も弱ってしまう可能性があります。

まとめ

歩行は①片足立脚期と②両足立脚期に分けられ、片足立脚期では重心の位置エネルギーと運動エネルギーを効率的に変換させることで、総エネルギー量を一定にすることができれば、エネルギー効率が高まります。両足立脚期においては、エネルギーのインプットが必要になり、それによって人の歩行は60-70%程度は、エネルギーが再利用されていると考えられています。エネルギー効率を下げることでトレーニング効果が生まれることになりますが、体の一か所に負担がかからないように細心の注意が必要となります。

エネルギー効率を高める効果のあるISEALインソールの使用もご検討ください。かかと着地時の衝撃を活用してつま先離地の際に過度な足の蹴りだしを予防する構造になっています。また、表面の突起は衝撃のエネルギーを一番理想的な道順を通るように足の使い方を誘導してくれます!怪我予防と疲労感の少ないウォーキングのおともに!

(文章:Victoria大学 長野放博士)