【Health Science Blog】Vol.11 「バランスが良い、悪いってどういうこと?」

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運動をしている時は、良いバランスを維持することが基本的に大切になります。
バランスが悪いと、倒れて怪我をしてしまう危険性が高まりますし、体操やダンスなどにおいても、良いパフォーマンスをこなすにはバランスが大切になります。
しかし、バランスって何なのでしょうか?
もちろん感覚的には誰でもバランスが何かっていうのは、ある意味分かっているとは思います。しかし、バランスを数値で表す方法などは、あまり知られていないというのが現状でしょう。
今回は、バランスについてバイオメカニクスの考え方を紹介したく思います。

Hof, A.L., Gazendam, M.G.J., Sinke, W.E. 2005. The condition for dynamic stability. Journal of Biomechanics, 38: 1-8.
Lugade, V., Lin, V., Chou, L. 2011. Center of mass and base of support interaction during gait Gait and Posture, 33 (3): 406-411.

さらに、今学界で認められている考え方の一つ先までお話したく思います。
この話に関しては、私自身の博士研究の中から生まれたコンセプトで、オープンソースとして閲覧できます。

Nagano, H. 2014. Understanding Gait Control Dynamics: Ageing Effects on Falling Risks. Victoria University, PhD thesis.

「重心がBOSの中にある」これが良いバランスを意味する。
現在バイオメカニクスで言われていることは、「体の重心がBOSの中にあれば安全」ということです。ここで言うBOSとは、Base of Supportを意味します。
※日本語ではBase of Supportは「支持基底面」と言われることもありますが、ここでいうSupportは体のバランスを「サポート」するという意味であり「あなたの主張をサポートする(支持する)」という意味とは異なるので、個人的に誤訳と考え、BOSで表現します。
BOSは、足と地面の接地面積、およびその間の面積を意味します。つまり、片足立ちをしている時は、足が地面と接地している面積がBOSとなります。しかし、両足で立っている場合は、両足の接地面積に加えて、両足間の面積もBOSに含まれます。
そして、体が動いていない時は、BOSの中に体の重心があればバランスが安定している状態と考えられています。片足立ちの状態だと両足立ちの状態と比べて、バランスを維持するのが難しくなりますが、これはBOSの大きさが片足立ちだと非常に小さくなることが理由としてあげられます。
「重心がBOSの中だとバランスは安定している」これは大きく見れば大体正しいのですが・・・体が動いている時、つまり運動中においてはこの定義は当てはまりません。
それはなぜでしょうか?
例えばBOSの境界線の上に重心がある場合、その重心が全く動いていなければ安全ですが、物凄い勢いで動いていれば、もう取り返しがつかない状態でそのまま倒れてしまうかもしれません。
なので、BOSと重心の位置関係に加えて、重心がどのように動いているかを考える必要があります。

「重心がBOSに向かっている」これは良いバランスと言い切れるか?
ひとつの考え方として、「重心がBOSの外にあったとしても、重心がBOSに向かっていればバランスは回復しているから危険ではない。逆に、重心がBOSの中にあっても外へ向かって移動していれば、バランスロスが始まっている状態である。」と報告した研究もありました。しかし、この考え方は完全であるとは言えません。というのも、仮に重心がBOSへと向かっていたとしても、重心が地面と近すぎれば、倒れていくことを阻止することはできないからです。
こうした問題をクリアするために、現在のバイオメカニクスにおいて、「運動中の良いバランスとは、Extrapolated Centre of Mass (XCOM)がBOSの中にあること」と定義されています。
ここで言うXCOMとは、以下の式で表されます。
XCOM=(重心の位置)+(重心の速度)×√(脚の長さ÷重力加速度)
このXCOMは、重心の速度が緻密に考慮されているため、運動時のバランスを考える上では正確であるとバイオメカニクスの観点から考えられています。

Balance BOS

バランスの数値化
よって、バランスの数値化はXCOM・重心の位置・BOSを用いて現在まで行われてきています。それ以外の方法は、直接的にバランスを測定しているとは言えないので注意をする必要があります。
「バイオメカニクスに基づき、バランスを~」などというキャッチコピーを見た場合は、本当に重心とBOSが考慮されているかどうか?をしっかりと見てください。
深く理解をしている人が少ない分、この原理をすっ飛ばしてバイオメカニクスを語りながらバランスについて言及する人は・・・要注意です!
これらを考慮したうえで、バランスの数値化は以下の通りです。
(1) Margin of Stability「安定性の余裕」(MOS)
(2) Available Response Time「実行可能な応答時間」(ART)

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機能的なバランスロス vs 危険なバランスロス
次に、BOSの考え方の問題点を挙げます。これは、いたってシンプルで、足が地面と接地していないとBOSとして考えないのであれば、例えば真上に垂直ジャンプをした場合、地面と足が設置していないため、BOSは全く存在しないことになります。そうなってしまうと、ジャンプして着地する、という何の危険もない動作が、「バランスロス」と定義されてしまいます。あるいは、歩く・走るなどといった普通のロコモーションですら、バランスロスということになってしまいます。
この考え方は、「機能的なバランスロス」と「危険なバランスロス」という風に区別することができれば解決します。前者は、歩く・走る・ジャンプするなどが含まれています。つまり、BOSの定義に基づけば、BOSが存在しない以上バランスロスになるが、怪我をするリスクが限りなく少ない場合を意味します。そして、後者の「危険なバランスロス」は、怪我に繋がるリスクが高い、あるいは転んでいる状況を意味します。これらを判断するためには、全く同じバランスの考え方をするのですが、BOSの代わりに「安全圏」という考え方をすれば解決します。安全圏とは、横断面において足の接地に関わらず両足とその間の面積を意味します。
そして、以下のように区別することが可能です。
(1) 安定状態:XCOMがBOSの中
(2) 機能的なバランスロス:XCOMがBOSの外だが安全圏の中
(3) 危険なバランスロス:XCOMが安全圏の外

最後に・・・
ISEALインソールは、バランスを向上させる効果があります。これは、重心のブレを極限まで抑えることで特に左右方向への安定性を向上させます。運動や普段の生活にご活用ください!

文責:Dr Hanatsu Nagano

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