【Health Science Blog】Vol.10「年齢による歩行機能の低下ってどんなこと?認知力との関係もあるの?神経伝達性の低下が原因?」

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私は今この時のために研究をしてきたのかもしれない!と最近思うことがあります。

というのも、2021年1月現在・・・コロナウイルスによる2度目の緊急事態宣言が出されました。これにより危ぶまれることこそ、シニアの方の健康だと思うのです。

もちろん一番優先されるべきことは、コロナウイルスにかからないことなのだと思います。

しかし、自宅から出ないことを続けていると・・・運動不足やコミュニケーション不足で歩行機能と認知機能、そして精神健康に悪い影響を及ぼす可能性があります。そして、これらのことは互いに関係しあっているため、一つが悪くなると他にも影響を及ぼす可能性はあります。

そして、個人の幸せという意味以外にも、社会的に考えてコロナの件で医療崩壊が叫ばれていますが、緊急事態宣言による外出自粛などが原因での二次被害は、極力抑える必要があります。

今回は、年齢による歩行機能の低下について大枠をまとめてみました。タイトルで「年齢による」と書きましたが、ほとんど全ての大人に共通して言えることになります。

Pirker, W., Katzenschlager, R. 2017. Gait disorders in adults and the elderly. Wiener Klinische Wochenschrift, 129: 81-95.


60代だと10%、80歳以降は60%が何かしらの歩行障害を抱えている

歩行に問題を生じる原因は様々ですが、神経伝達の問題、物理的な身体の問題、精神健康の問題などに分かれていきます。これらの要因は互いに関係があるため、一つが悪くなれば他にも影響を与える可能性があります。また、逆の見方をすれば、歩行に問題が生じた場合は、「神経伝達・物理的な問題・精神健康」を確認することが重要と言えます。例えば、歩行能力が下がってくることは、将来的な認知症のリスクと関係があるという報告もあります。シニア層に関しては、約半数が、神経伝達が原因で歩行機能が低下していると言われています。しかし、その3分の1程度は、多数の要因があるため、どれか一つを原因として挙げるのは難しいという問題もあります。


求心性フィードバックについて

求心性フィードバックとは、感覚器が刺激を脳に伝達することです。例えば目・耳・プロプリオセプション(筋肉・関節などの位置感覚)のいずれかが悪くなっていた場合、他の部分で補おうとする傾向があります。歩行時に目が悪い場合は、耳やプロプリオセプションの働きが歩行の安全を保とうとします。つまり、どれか一つが悪くなると他の部分に頼りやすくなるということです。

認知力と歩行機能

歩行機能の低下と認知力・寿命には関係があります。そして、認知機能の中では、実行機能・視覚空間の感覚・注意力などが安全な歩行と関連しています。以前の投稿でもお話しましたが、「話しかけると、立ち止まって歩いてしまう人」は転倒のリスクが高いと言えます。もちろんここでは、じっくり話すために立ち止まるということを指しているのではなく、立ち止まらないと話せない、つまり「歩く」「話す」という行動を同時に取る能力が低下している人のことを指しています。認知機能は多岐にわたりますが、認知力の向上は安全な歩行にも役立つとされています。

神経伝達への障害と歩行への影響

神経伝達とは、主に上述した求心性フィードバックと遠心性フィードバックによって成り立っています。例えば、障害物を見て、それを回避した場合、求心性フィードバックは「視覚で得た情報を脳に送る」、遠心性フィードバックは「脳から足に回避する信号を送る」ということになります。これらに問題が生じると、当然歩行機能や安全性が低下します。最も大きな神経伝達の問題としては感覚運動失調が18%を占めています。感覚運動失調とは、感覚を得ることに問題が生じ、体全体を同時に協調させて動かすことが難しくなることを指します。体の運動機能を司る小脳自体には問題がないという特徴があります。感覚運動失調に次ぐ神経伝達の問題としては、パーキンソン病が16%となります。そして、8%が前頭葉の問題であり、先ほど話した感覚運動失調の中でも小脳が原因の種類…と続いていきます。

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感覚運動失調:歩行の特徴としては、歩幅が短くなり歩行速度が低下します。さらに両足の横幅(歩隔)は増加する傾向があります。これらは、バランスに問題が生じた時に共通して起こる歩行の変化です。この症状があると、平衡感覚や体の位置感覚が低下するため、視覚でカバーしようとする傾向が生まれます。つまり、視覚が働かない状況(例:暗闇)では、さらに症状が悪化し、歩行中の怪我のリスクが高まります。

パーキンソン:動作速度の低下、動きのかたさ、震え、バランスの低下などが主に見られます。初期は、体の片側に症状が現れ、その後反対側へも影響が出てくることがあります。歩行時に他のことを同時にすると(二重課題・多重課題)歩行の安全性が損なわれます。パーキンソン症状を持つ人は、階段を上る方が平たんな地面を歩くよりも簡単な場合が多いのが特徴です。「すくみ足」は、パーキンソン症状を持つ人の歩き方の特徴の一つです。方向転換したり、障害物に近づいたり、狭いところを通ろうとしたり(例:ドア)したときに、すくみ足は生じやすくなります。レボドパを使用すれば、すくみ足の症状は改善されることがありますが、症状の進行に併せて、長期使用しているとその効果は減っていく傾向があります。

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前頭葉:前頭葉の問題によって生じる歩行への障害は「Highest level gait disorder」などと形容されることがあり、非常に多くの問題を同時に生じやすくなります。これらは、脳の灰白質の萎縮が原因で起こると考えられています。それにより、運動皮質と中脳の歩行機能に関連している部分のリンクを弱めます。前頭葉への悪影響により歩行が難しくなった場合、「歩き方を忘れてしまう」という状況になることがあります。同様に、立ち上がり方も忘れてしまうことがあります。しかし、一度歩きだすことができれば、徐々にその状態を続けることができるようになります。症状の根本的な改善は難しいとされています。聴覚や視覚に合わせた歩行トレーニングやレボドパの使用など、パーキンソン症状において活用されている方法も、効果が得られる可能性はあまり高くないと報告されています。


小脳性の感覚運動失調:
感覚運動失調と基本的には同様の症状が見られますが、感覚運動失調が例えばプロプリオセプションによる平衡感覚やバランス感覚、位置感覚の低下であるとすれば、小脳性の場合は、文字通り小脳への影響によって体の統合が失われバランスに悪影響が出やすくなります。また、小脳性の特徴としては、方向転換時や複雑な歩行(例:タンデム歩行など)を行うとバランス力が低下します。これらを引き起こす原因の一例としては、「血管系の問題、アルコールなどの中毒、多発性硬化症などの炎症、遺伝性の病気」などが挙げられます。

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まとめ:神経伝達の問題は、全てが解明されているわけではなく、確立された治療法が少ないことが問題として挙げられます。しかし、以上の情報を基に、まずは現状把握をすることが大切になります。

ISEALインソールは、歩行中の転倒リスクを下げるために開発されました。履くだけで効果があるというのが特徴なため、上記のような症状があっても活用いただけます。現在の社会情勢の中でこそ、転倒予防が大切になってくることと思います。

文責:Dr Hanatsu Nagano