【Health Science Blog】Vol.6 「左右非対称な靴って本当に大丈夫なの?」

大手靴メーカーを含む様々な履物で、「左右非対称」とか「アシンメトリー」(asymmetry)などというフレーズを聞くことが多くないですか?

普段は、あまり否定的なことを言いたくはないのですが、この発想は非常に危険であると言えます。左右非対称が肯定できる理由があるとすれば、それは実際に足を診てもらいオーダーメイドで作ってもらう場合のみです。その場合は、例えば右足と左足の形を是正することが目的であれば、左右非対称になることもあるかもしれません。しかし、こうした個別のカウンセリングを行わずして左右非対称にすることは、履物としてプラスであるとは考えられません。

これは、某大手メーカーから始まった傾向であり、「コーナー回りを良くする」などのキャッチコピーが使われていましたが、もしこれが、本当に効果があるのであれば大変なことです。左回りで速くなるのであれば、右回りは厳禁なはずです。そして、真っ直ぐ歩くと徐々に左にずれていくことになるはずです。万一、それでも真っ直ぐ歩くのであれば、右側に体を動かそうとする癖が「ニュートラル」であると錯覚させることになります。当然、どちらかに傾いていくような設計がされた履物が中~長期的に見て問題を生じない可能性は限りなく低いのです。

もちろん、陸上の400mリレーなどコーナーを回ることが前提の競技に限定して使われるのであれば、画期的な発明と言えると思います。しかし、普段履きに活用するのは非常にリスクがあると言えます。

この商品は、最盛期で年間600万足売れて、子供たちが使用しています。私は、陸上競技に限定せずにこうした履物が広く利用されることに危機感を覚えているので、左右非対称が生み出すロコモーションの問題点をまとめたく思います。

さらに残念なのは、空前絶後の大ヒット商品からアイデアだけ取って「左右非対称」「アシンメトリー」と言った「コピーだけ使った履物」が流行ってきていることです。私自身、様々な靴メーカーと話をしてきましたが、まったく何の根拠もなくこうした靴を作ることが、いかに将来的な問題を生み出す可能性があるか・・・ぜひ、以下の報告をご参照ください。

Nagano, H., Begg, RK., Sparrow, WA., Taylor, S. 2013. A comparison of treadmill and overground walking effects on step cycle asymmetry in young and older individuals. Journal of Applied Biomechanics, 29 (2): 188-193.

Nagano, H., Begg, RK., Sparrow, WA., Taylor, S. 2011. Ageing and limb dominance effects on foot-ground clearance during treadmill and overground walking. Clinical Biomechanics, 26 (9): 962-968.

LaRoche, DP., Cook, SB., Mackala, K. 2012. Strength asymmetry increases gait asymmetry and variability in older women. Medicine and Science in Sports Exercise, 44 (11): 2172-2181.

Murray, KJ., Azari, MF. 2015. Leg length discrepancy and osteoarthritis in the knee, hip and lumbar spine. Journal of Canadian Chiropractic Association, 59 (3): 226-237.

Arnold, JB., Mackintosh, SF., Jones, S., Thewlis, D. 2014. Asymmetry of lower limb joint loading in advanced knee osteoarthritis. Gait and Posture, 40 (1): S11.

左右非対称な歩き方は、変形性関節症のリスクを高める可能性がある。

両脚に均等に負担を分散することができなくなった場合は、片方の脚により大きな負担がかかる可能性が増加します。それによって、膝、股関節、腰などで変形性関節症を患うリスクが高まります。これは、脚の長さの差などから生じることもありますが、左右対称な歩き方を目指すことで、こうしたリスクを下げることができると考えられます。膝の例を出せば、O脚への変形などが懸念されます。

左右非対称な歩き方は、転んでケガをするリスクを高める。

左右非対称な歩き方は、転倒のリスクが高まるとの報告があります。その理由としては、左右非対称だと歩行がバラつきやすいということや、「ファンクショナル・アシメトリー(Functional Asymmetry)」と呼ばれる歩き方になりやすいことが挙げられます。ファンクショナル・アシメトリーとは、自信のある脚(通常利き脚)で歩幅をとろうとして、自信の無い脚(通常反利き脚)ではリスクを取らないような歩き方になりがちだという傾向のことを指します。この場合、自信のある脚の方が危険にさらされやすくなる可能性があります。


左右非対称な歩き方は、左右差をどんどん大きくしていく可能性がある。

筋力の強さの差などが、歩き方の左右差に繋がっていきますが、それが続いていくと関節の可動域や筋力の強さに影響が出ると考えることができます。上記のファンクショナル・アシメトリーのような歩き方を続けると、弱い方の脚はさらに弱くなってしまう危険性もあります。よって、左右差は是正しないと、非均一性は増加していくことが予測されます。

このように、左右非対称な構造を持つ履物というのは、例外的なケースを除いては「100害あって1利無し」と言えると思います。
例外は①競技のため、②オーダーメイドで個人の状態に対応するため
などが挙げられます。

左右非対称ソールの靴は変形性膝関節症のリスクを高める.

特に、子供やシニアの方達には、大きな健康被害が生まれる可能性があるため、ご注意ください。